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東京高等裁判所 平成8年(行ケ)103号 判決 1997年6月24日

東京都台東区東上野2丁目18番4号

原告

日本電動式遊技機特許株式会社

同代表者代表取締役

徳山謙二朗

大阪府大阪市鶴見区今津北4丁目9番10号

原告

高砂電器産業株式会社

同代表者代表取締役

濱野準一

東京都港区高輪3丁目22番9号

原告

ユニバーサル販売株式会社

同代表者代表取締役

岡田和生

原告ら訴訟代理人弁護士

島田康男

同 弁理士

山川政樹

紺野正幸

福岡県北九州市小倉北区東篠崎町1丁目11-11

被告

有限会社三貴商事

同代表者代表取締役

関弘

同訴訟代理人弁護士

坂口公一

小林弘明

尾﨑毅

同 弁理士

澤田俊夫

主文

特許庁が平成7年審判第22127号事件について平成8年5月2日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告ら

主文と同旨の判決

2  被告

「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

被告は、考案の名称を「スロットルマシンに装着できる打止解除装置」とする登録第2060756号実用新案(平成2年8月6日出願、平成6年7月27日出願公告、平成7年5月23日設定登録。以下「本件実用新案登録」といい、その考案を「本件考案」という。)の実用新案権者である。

原告らは、平成7年10月11日、本件実用新案登録を無効とすることについて審判を請求し、特許庁は、この請求を同年審判第22127号事件として審理した結果、平成8年5月2日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同月15日、原告らに送達された。

2  本件考案の要旨

外周に数種類の標章を表示した複数個のリールと、手動により前記各々リールを個々独立に停止させるストップ装置と、前記全リール停止時の有効標章の組合せに対応する検出信号を受信して、所定数のメダルを払い戻しする払い戻し装置と、前記メダルの払い出し数が所定の枚数となったときにメダル集積回路よりの打止指令を受信し、前記スロットマシンを停止する打止装置と、を備えたスロットマシンに装着できる打止解除装置であって、当該スロットマシンの前記打止装置に、一定時間経過後に自動的にリセット信号を発信するリセット信号発生回路を接続する構成としたスロットマシンに装着できる打止解除装置。

3  審決の理由の要点

(1)  本件考案の要旨は、前項記載のとおりである。

(2)  これに対して、審判請求人(原告ら)は、本件考案は甲第4号証及び甲第5号証(いずれも本訴における書証番号)の記載から当業者がきわめて容易に考案することができたものであって、実用新案法3条2項の規定に該当するから、同法37条1項1号の規定によりその登録を無効とすべきである(申立理由1)並びに本件考案の明細書及び図面の記載が実用新案法5条3項に規定する要件を満たしていないので、同法37条1項3号の規定によりその登録を無効とすべきである(申立理由2)、旨主張している。

(3)<1>  甲第4号証である実願昭60-44649号(実開昭61-159977号)の願書に添付された明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルムには、「多数台のパチンコゲーム機の収支等のデータを集中的に集計管理すると共に、その集計データに基づいてパチンコゲームの打止制御等を行なうようにしたパチンコホール用制御装置に関する。」(1頁末行~2頁4行)、「上記打止信号Sxはプログラマブルダウンカウンタ101、102、103…のトリガ端子Tにも与えられるようになっている。このダウンカウンタ101、102、103…はトリガ端子Tに打止信号Sxを受けたときに、プリセット端子Pに対する入力値からダウンカウントを開始し、そのカウント値が零になったときに「1」信号を出力して対応するR-Sフリップフロップ81、82、83…をリセットさせる。」(7頁6行~14行)、「ダウンカウンタ101は前記打止信号Sxの出力に応じて1分間のカウント動作を行ない、そのカウンタ動作が終了したときにR-Sフリップフロップ81をリセットし、これに応じてパチンコゲーム機11にあってはその打止後に1分が経過したときに打止解除される。」(12頁末行~13頁5行)及び「客数データに基づいたパチンコゲーム機の打止解除時期の変更等の制御を自動的に行なうことが可能になる」(15頁16行ないし18行)点が記載されている。

<2>  甲第5号証である特開平1-198582号公報には、「特定入賞孔に入賞したパチンコ玉により駆動される応動装置、及びこの応動装置が特定状態で駆動停止されたときに入賞率を高めた状態を所定の条件が成立するまで保持する電気役物を夫々備えたパチンコゲーム機を、そのパチンコゲーム機からのデータに基づいて集中的に管理するようにしたパチンコホール用集中管理装置に関する。」(1頁右欄6行~13行)及び「電気役物の動作に応じてパチンコゲーム機の打止を行なう際に、当該パチンコゲーム機での遊技規制を人手を要さずに確実に行なうことができると共に、打止発生前に特定入賞孔に入賞したパチンコ玉により電気役物が再動作されたときには、上記のようなパチンコゲーム機の打止状態(遊技ができないように規制された状態)を直ちに解除できるという優れた効果を奏する」(5頁右下欄3行ないし10行)点が記載されている。

(4)<1>  そこで、本件考案と甲各号証に記載されたものとを対比すると、甲各号証には、パチンコゲーム機においてアウト玉数とセーフ玉数との関係が所定の関係になると打止装置が作動し、所定の時間が経過した後で自動的に打止解除が行われるように構成されたパチンコホールの制御装置(集中管理装置)が記載されている。しかしながら、何れも、パチンコゲーム機を対象とした打止解除に関するものであって、スロットマシンを対象としたものではなく、本件考案の必須の構成である「スロットマシンの打止装置に、一定時間経過後に自動的にリセット信号を発信する」点については何ら記載乃至示唆されていない。

<2>  そして、本件考案は、前記甲各号証には記載されていない上記の括弧書した構成を具備することにより、「人手を要さず、しかも簡便に打止装置のロックを、自動的に解除できる」等の効果を奏するものであり、このような効果は前記甲各号証には期待できないものである。それ故、本件考案については当業者といえども甲各号証の記載からきわめて容易に想到できるものではない。

(5)<1>  申立理由2について、申立人は、概ね、(a)本件考案によって達成できるとされる効果の内、「従来のスロットマシンの打止装置に簡易かつ迅速に組付け(接続)できる構成とすること、更に在来のスロットマシンの打止装置に簡易に装着でき、コストの低減と、機器の汎用性を確保すること、又は互換性を確保すること、」が何故達成できるか説明されていない、(b)図示された一つの実施例が技術的に矛盾しており、明細書が当業者が実施できるように記載されていない、として本件考案の明細書には記載不備の箇所がある旨主張している。

<2>  しかしながら、上記の主張は何れも実施態様レベルの効果の記載に基づく主張であって、本件考案の必須の構成に係るものではない。明細書の考案の詳細な説明の項には、本件考案の属する技術分野における通常の知識を有する者が、本件考案を容易に実施をすることができるように記載されていないとは到底言えない以上、審判請求人が主張するように明細書の記載に瑕疵があるとは認められない。

(6)  以上のとおり、上記申立理由1、2はいずれも正当なものとして採用することができない。

したがって、審判請求人が主張する申立理由及び証拠方法によっては、本件実用新案登録を無効とすることができない。

4  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点(1)ないし(3)は認める。

同(4)<1>のうち、甲各号証には、「本件考案の必須の構成である「スロットマシンの打止装置に、一定時間経過後に自動的にリセット信号を発信する」点については何ら記載乃至示唆されていない」ことは争い、その余は認める。同(4)<2>は争う。

同(5)<1>は認め、<2>は争う。

同(6)は争う。

審決は、パチンコゲーム機の技術をスロットマシンの技術に転用の容易性についての判断を誤ったため進歩性の判断を誤り(取消事由1)、明細書の記載不備の点についての審理を尽くしていないなど(取消事由2)の違法があるから、取り消されるべきである。

(1)  取消事由1(進歩性についての判断の誤り)

審決は、甲各号証には、「本件考案の必須の構成である「スロットマシンの打止装置に、一定時間経過後に自動的にリセット信号を発信する」点については何ら記載乃至示唆されていない」等と認定し、「本件考案については当業者といえども甲各号証の記載からきわめて容易に想到できるものではない」と判断するが、誤りである。

<1> 次の事情によれば、スロットマシンの技術分野に属する技術者は、パヂンコゲーム機の打止解除装置を知り得ることができ、その技術をスロットマシンの打止解除装置に流用することは当業者ならきわめて容易に行えることである。

<2> スロットマシンはパチンコゲーム機と一緒に同じ店に設置されているケースが圧倒的に多い。このように、同じ店にパチンコゲーム機とスロットマシンとが併設されているときに、仮に、パチンコゲーム機は打止後自動的にその打止状態が解除されるようになっているのに、スロットマシンはそうなっていないとすれば、その店では店全体の集中管理ができず、はなはだ不都合なことになり、当然スロットマシンも自動的に打止解除になるようにメーカーに要請することになる。その結果、パチンコゲーム機の技術がスロットマシンのメーカーに知らされることになる。

さらに、パチンコゲーム機とスロットマシンとは、ホール中でどちらがより多くの割合を占めるかという競争関係にあり、一方の技術を他方のメーカーが注視し、自己により有利になるように技術を磨いている。したがって、一方の技術が他方にきわめて知られやすい関係にあり、パチンコゲーム機の技術を、必要があれば、スロットマシンに取り入れることは通常行われていることである。

逆のケースも同様であり、特にパチンコゲーム機の場合、よりゲームの多様性を求めてパチンコゲーム機自体に簡単なスロットマシンと同様なものを組み込む場合もある。

このように、スロットマシンとパチンコゲーム機とは、同じ店に設置するために、双方技術的によく知られる関係にある。

<3> しかも、そもそも、パチンコゲーム機とスロットマシンとが同じメーカーで製造されており、一方の技術を必要があれば他方の技術に流用するのは容易である。

<4> 一方から他方への転用に特別の障害があれば格別であるが、本件考案は、パチンコゲーム機あるいはスロットマシンのそれぞれに固有の技術に関するものではなく、どちらにも、更には一定の条件が整ったとき動作を停止しその後その動作停止を解除する必要がある装置一般にも、共通に使用できる技術であって、転用に何らの障害もない技術である。

<5> 被告は、甲第4及び第5号証に開示されている技術は、複数のパチンコゲーム機の制御を一括して行うもので、その制御装置を用いても単体のパチンコゲーム機が独立して打止制御を行うことはできない旨主張するが、仮にそれが事実であったとしても、その事実は本件考案がきわめて容易に推考できるかどうかとは全く関係がない。

なお、本件考案は、単体で制御する機械に限定されているものではない。スロットマシンの技術者にとっては、タイマーで打止解除できることを知りさえすればよいのであって、それで多数の機械を同時に制御するか、単体に組み込むかはそれぞれの機械、装置において任意に検討、適用すればよいというだけのことにすぎない。

(2)  取消事由2(明細書の記載不備についての審理不尽等)

審決は、「明細書の考案の詳細な説明の項には、本件考案の属する技術分野における通常の知識を有する者が、本件考案を容易に実施をすることができるように記載されていないとは到底言えない以上、審判請求人が主張するように明細書の記載に瑕疵があるとは認められない」と判断する。

しかしながら、審決は、審判請求人(原告ら)の主張に対し、少なくとも、効果と構成の不一致が存在するのか、実施例に技術的矛盾が存在するのかを明らかにすべきであり、不一致、矛盾が存在しても本件実用新案登録を無効とすべきではないというのであれば、その理由を明らかにすべきである。このような理由を示すことなく明細書の記載に瑕疵がないと判断した審決には、審理不尽、理由不備の違法がある。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の認定及び判断は正当であって、原告ら主張の誤りはない。

2  反論

(1)  取消事由1について

<1> パチンコゲーム機とスロットマシンは、公安委員会による認定の関係においては、その技術上の規格を全く別個00に定められていること、パチンコゲーム機あるいはスロットマシンのみを製造するメーカーも存在すること、パチンコゲーム機とスロットマシンの製造メーカーは、全く別個の組合を形成していること、特許の管理、運営についても、パチンコ業界とスロットマシン業界では別個の会社がこれを行っていること、両機が同じパチンコホールに設置されている場合(スロットマシンが設置されていないパチンコホールがあることも明らかな事実であるが)においても、パチンコゲーム機、スロットマシンは全く別コーナーに設置されており、顧客獲得、利益追求という面では、相互依存の関係というよりむしろ競争関係にあること等からすれば、両者が技術的分野を全く異にすることは明らかである。

さらに、甲第4及び第5号証には、「本件考案の必須の構成である「スロットマシンの打止装置に、一定時間経過後に自動的にリセット信号を発信する」点については何ら記載乃至示唆されていない」ことを総合判断すれば、本件考案の特徴はスロットマシンに固有の技術的問題に関わるものであるということができ、本件考案が進歩性を欠くとは到底いうことができない。

<2> また、そもそも甲第4及び第5号証に開示されている制御装置は、複数のパチンコゲーム機の制御を一括して行うものであり、個々のパチンコゲーム機の制御とは別のものである。甲第4及び第5号証の制御装置を用いても、単体のパチンコゲーム機が独立して打止解除を行うようにすることはできない。これに対し、本件考案は、スロットマシン単体の制御に関するものであり、スロットマシン単体で打止の自動解除という所期の効果を実現するものである。このような技術分野の明確な相違にかんがみれば、審決の「甲各号証には、・・・本件考案の必須の構成である「スロットマシンの打止装置に、一定時間経過後に自動的にリセット信号を発信する」点については何ら記載乃至示唆されていない」との判断には何ら誤りはない。

(2)  取消事由2について

審決は、審判請求人(原告ら)の主張を総合判断した結果、「本件考案の属する技術分野における通常の知識を有する者が、本件考案を容易に実施をすることができるように記載されていないとは到底言えない」との理由から、その主張を退けたものであり、審理不尽、理由不備でないことは明らかである。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立は、いずれも当事者間に争いがない。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本件考案の要旨)及び同3(審決の理由の要点)については、当事者さ間に争いがない。

2  そこで、原告ら主張の取消事由の当否について検討する。

(1)  取消事由1について

<1>  審決の理由の要点(3)(甲各号証の記載事項の認定)及び同(4)<1>のうち、「甲各号証には、パチンコゲーム機においてアウト玉数とセーフ玉数との関係が所定の関係になると打止装置が作動し、所定の時間が経過した後で自動的に打止解除が行われるように構成されたパチンコホールの制御装置(集中管理装置)が記載されている。しかしながら、何れも、パチンコゲーム機を対象とした打止解除に関するものであって、スロットマシンを対象としたものではな」いことは、当事者間に争いがない。さらに、甲第4号証によれば、同号証には、「例えばパチンコゲーム機11において、そのアウト玉数が「2000」で且つセーフ玉数が「5000」以上になると、その出力端子aから200個のアウト玉パルスP1が出力されると共に、出力端子bから500個以上のセーフ玉計数パルスP2が出力され、これら各パルスP1及びP2をカウントしたカウンタ31及び41から夫々数値信号Sa(「200」及び数値進行Sb(「500」)が出力される。このため、減算手段51にあっては、上記数値信号Sa、Sbに基づいて(Sb-Sa)の減算を行ない、その減算結果に対応した数値信号Sc(「300」)を出力する。すると、比較回路71が上記数値信号Scと打止設定値記憶部61からの数値信号Sd(「300」に相当)とを比較し、この場合にはSc≧Sdの関係となるから、比較回路71から「1」信号が出力され、これに応じてR-Sフリップフロップ81がセットされてそのセット出力端子Qから打止信号Sxが出力される。この結果、斯かる打止信号Sxによって、パチンコゲーム機11が打止されると共に、ダイオード91が点灯されてパチンコゲーム機11が打止された旨の報知が行なわれる。」(9頁18行ないし10頁1行)、「比較回路22、23、24から「1」信号が出力されていた場合、即ち他店の客数データが「150」以上であった場合には、AND回路25、26及びインバータ29の各出力が「0」と信号となって、トランスファゲート15のみが比較回路22からの「1」信号を受けて導通状態を呈し、時間記憶部11に記憶された1分に対応した数値がダウンカウンタ101のプリセット端子Pに与えられる。」(12頁12行ないし末行)と記載されていることが認められる。

これらによれば、甲第4号証に記載の考案は、パチンコゲーム機の損失パチンコ玉数が打止設定値を超えたとき打止信号を出力し、また打止解除時期を他のパチンコホールの客数に応じて設定して打止解除信号を出力するようにしたパチンコホール用制御装置であると認められる。

<2>  甲第4号証に記載の打止解除装置はパチンコゲーム機に関するものであるが、これを、同じ遊技ゲーム機であり、計数対象がパチンコ玉かメダルかという差異はあるもののその所定数を計数してスロットマシンを停止する打止装置を有する不ロットマシンに転用することは、容易に着想し得るものであると認められる。

そして、甲第4号証に記載の打止解除装置は、前記<1>のとおり、打止装置に電気的に接続させるものであるから、既存の打止装置にも接続可能なものと認められ、したがって、メダルの払い出し数が所定の枚数となったときにメダル集積回路よりの打止指令を受信し、前記スロットマシンを停止する打止装置を有するスロットマシンに甲第4号証に記載の打止解除装置を適用することに何ら技術的困難性はないと認められる。

さらに、「人手を要さず、しかも簡便に打止装置のロックを、自動的に解除できる」等の効果も、上記のように構成することにより当然奏する効果であると認められる。

そうすると、本件考案は、メダルの払い出し数が所定の枚数となったときにメダル集積回路よりの打止指令を受信し、前記スロットマシンを停止する打止装置を有するスロットマシンに甲第4号証に記載の打止解除装置を適用することよってきわめて容易に推考することができたものと認められるから、「本件考案については当業者といえども甲各号証の記載からきわめて容易に想到できるものではない」とした審決の判断は誤りであるといわなければならない。

<3>(a)  被告は、パチンコゲーム機とスロットマシンの製造メーカーは別個の組合を形成していること、パチンコ店においてパチンコゲーム機、スロットマシンは別コーナーに設置されていること等を理由として、技術の転用が容易でない旨主張する。

しかしながら、技術の転用の容易性は、ある技術分野に属する当業者が技術開発を行うに当たり、技術的観点からみて類似する他の技術分野に属する技術を転用することを容易に着想することができるか否かの観点から判断されるべきところ、この観点からは、前記説示のとおり、パチンコゲーム機の技術をスロットマシンの技術に転用することは容易に着想できることと認められ、被告主張のパチンコゲーム機とスロットマセンの製造メーカーは別個の組合を形成していること、パチンコ店に治いてパチンコゲーム機、スロットマシンは別コーナーに設置されていること等の事情も、この認定を左右するものではない。

よって、この点の被告の主張は採用できない。

(b)  被告は、甲第4号証に開示されている制御装置は、複数のパチンコゲーム機の制御を一括して行うものであり、個々のパチンコゲーム機の制御とは別のものであり、甲第4号証の制御装置を用いても、単体のパチンコゲーム機が独立して打止解除を行うようにすることはできない旨主張する。

確かに、前記<1>に説示のとおり、甲第4号証に記載の考案は、他のパチンコホールの客数データを記憶する記憶回路、人数記憶部、比較回路、時間記憶部から構成される回路からの所定時間により複数のパチンコゲーム機の打止解除制御を一括して行うものではあるが、複数のパチンコゲーム機にはそれぞれ個別に打止信号を出力するR-Sフリップフロップ及び打止解除信号を出力するプログラマブルダウンカウンタが設けられているから、単体のパチンコゲーム機につき独立して打止及び解除のための制御を行うことが可能な技術であると認められる。よって、被告のこの点の主張は採用できない。

(2)  結論

したがって、原告ら主張の取消事由1は理由があり、原告らの請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がある。

3  よって、原告らの本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

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